Untitled

「本当の心は 本当の心へと 届く」
という歌詞の一節が自分の中に貼りついてずっと離れなくなってしまい、意を決して東京国際フォーラムにて開催されたライブへ行ってきました。

ホールの照明が暗転し、カウントダウンの後、1曲目に演奏されたのは「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」、まさにその曲でした。今回のライブでキーボードを担当したのは「アルペジオ」のシングル盤でオルガンを演奏した西村奈央さんという方で、自然体でありながら才気が溢れ出る演奏にライブ全編を通してずっと目が離せませんでした。ゲストではなく、バンドメンバーの1人としてステージに立った満島ひかりは完全にボーカリストで、総勢36名のメンバーの中にコーラス(隊)はいなかったのですが、その不在をポップスの歌心を持つキーボードの演奏が大きくカバーしていたように感じました。

序盤はカルテット編成だったストリングスが20人超のフル編成となって演奏された「ぼくらが旅に出る理由」。服部隆之が指揮を執り、まとめ上げられた弦楽合奏は大きなホールの全体を満たすように広がっていきました。新しいゴジラの身体から発せられた放射熱線のように、天井からのライトを手鏡で客席に反射させる満島ひかりとともに演奏された「あらし」は披露された楽曲の中で一番ダーク且つスロウな曲で、バンドの骨格となるベースとドラムスの骨太さを浮き彫りにしていました。

ライブの後半は"ファンク交響楽"のスーパーバンドの真骨頂と銘打たれ、ベースのグルーヴが強い楽曲を次々とシームレスに演奏されました。ただ、すべての曲で36名全員が自らの楽器を演奏する訳ではなく、ホーン隊のパートがない場面ではイスの役割を果たしているカホンをそれぞれのリズムで叩いたり、ストリングスの演奏が無い「東京恋愛専科」ではシャボン玉を吹き、サビでは振り付けを揃えて踊っていて、そんな様子が不思議となぜだか泣けてしまいそうになる瞬間でした。

そのコーラスのフレーズを繰り返すイントロから、メドレーの最後に演奏されたのは「ある光」。満島ひかりの腕の中には赤いテレキャスターディストーションで平らに歪んだギターの音色とともに楽曲が披露されました。メドレーを終え、一瞬息を整えたあと「よし、やりましょう」と声を掛け、ドラムのカウントから「流動体について」。演奏を終えると「アンコールも、よろしく!」と気丈に言葉を残し、一旦ステージを降りる形でライブの本編が終わりました。

アンコールの1曲目は「流れ星ビバップ」。終演後に音楽ナタリーが生配信したPeriscopeで語られた「アルペジオ」のオルガンのレコーディングに至った経緯の話を聞いたとき、改めての感動がありました。そして、その話を知らないままライブで見ていた「流れ星ビバップ」のキーボードの演奏は、心の底から気持ちを躍らせるものでした。

そして、アンコール最後の曲は本編の1曲目と同じ「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」。演奏を終えると、ライブが始まったときと同じようにこれからカウントダウンを行い、ライブを終える旨が説明されました。日常と非日常、その間に自ら線を引くということは、日常と非日常の両方が現実であることを自己認識するための手段なのではないか、と自分は思いました。そして、この手段を観客に提示した小沢健二という人の誠実さを強く感じました。

「5、4、3、2、1、生活に帰ろう」
ホールを照らしていた照明が消え、客電が再び点くまでの間、観客の大きな拍手は暗闇の中のステージに向けられました。

>>>

f:id:citizenpool:20180504004746j:plain

 >>>

 

年の終わりの纏めとて (2017)

 JR中央線各駅停車、千駄ヶ谷駅信濃町駅の間、一瞬だけ南側の車窓から、建設中の新国立競技場が見える瞬間がある。夏の頃は赤と白のクレーンが数多く屹立している様子が印象的だったが、いよいよスタジアムの客席部分も2階、3階、4階と組み上がってきた。ただ、この工事現場を眺めるたびに思いを馳せるのは、2年半後の未来ではなく、今年7月の報道、工事の現場監督を任された23歳の新入社員が自らの命を絶ったというニュースだ。生きていた頃の彼の心境を察して、自分の心も押しつぶされそうな気持ちになった。生き続けていて欲しかった。

-

 12月20日、ミツメ「エスパー」の7inchを探し求めて、関東近郊を駆け回る。大宮から柏へ向かうため、東武野田線に初めて乗車した。春日部駅、電車の窓の外にあった匠大塚とサトーココノカドーの看板に少しだけ胸が躍った。関東近郊のディスクユニオンには、レコードを持っていた人の暮らしの欠片の感じがより濃く出ているように感じる。自宅のレコード棚からひとつかみで売りに来た、そのイメージが浮かび上がった。その後千代田線を経由して下北沢、原宿、渋谷とレコード店を巡るもなしのつぶて。結局「エスパー」の7inchは手に入れられなかったものの、色々なお店を巡りレコードを掘って楽しかったから良いか、と思った。

 渋谷クラブクアトロにて開催された、どついたるねんの無料ワンマンライブへ。小林4000とファック松本の脱退の一件があって、正直冷静な気持ちでライブを見ることは出来なかったのだけれど、ワトソンの変わらないギラギラした眼差しを見て、笑って、少しだけ安心した。物販で買ったワトソンwithチーム蟹工船のライブ音源がとても良い。年間ベストディスク。

-

 乗車率100%超の新幹線で1000%SKYのアルバムを聴く。藤村頼正(シャムキャッツ)のドラムは青空を押し広げていくように力強く、言い得て妙のバンド名だと思う。カーステレオで聴きたい一枚。2018年は車を買いたい。いっそレンタカーでもいい、遠くへ行きたい。

 新幹線を降りる。中学・高校の6年間を暮らした街の駅前の風景が広がっている。大学生の頃、この街に帰省した時、CDショップの試聴機で展開されていたスカートの「エス・オー・エス」を購入したことを思い出した。そのCDショップへ入る。ぐるりと店内を一周して、直ぐに店を出た。雪が舞う空を見上げながら、実家へ向かった。

#20171214 Shinkiba

 新木場スタジオコーストにて開催された、スピッツとVINTAGE ROCKが共催するライブイベント「新木場サンセット2017」へ。例年7月〜9月の夏フェスシーズンに開催されていた本イベントだが、今年はバンド結成30周年を記念した全国ツアーがあったため、初めて12月の冬開催となった。日没の時刻はとうに過ぎた12月14日の18時、新木場サンセット2017の2日目が開演した。

 1番手、スタジオコーストのメインステージである8823ステージに登場したのはTHE COLLECTORS。古沢"cozi"岳之による力強いドラムのビートの勢いに乗って「東京虫バグズ」「MILLION CROSSROADS ROCK」が演奏される。続けて「TOUGH」が披露された後、ボーカルの加藤ひさしは「オープニングアクトザ・コレクターズです!」と観客に挨拶し、新木場サンセット"常連"として毎年呼んでもらうスピッツに感謝の思いを述べた。新譜「Roll Up The Collectors」の楽曲「ロマンチック・プラネット」の演奏を終えた後、加藤は「去年の新木場サンセットに来たって人、どれ位いる?」と観客に挙手を促すと、挙がった数の多さに「こりゃあ、バックれられないな…」とバツが悪い表情で呟いた。「去年のMCで、スピッツは自分のイベントなのに『ロビンソン』をやらない、という話になって。じゃあ代わりにザ・コレクターズが『ロビンソン』を歌おうじゃないか!という約束を去年ここでしまして、」「さっきリハで歌ってたらマサムネ君に2番の歌詞が間違ってるって指摘されちゃって…みんなスピッツのファンだから歌ってくれるよね?よろしく頼むよ!」というMCの後、「ロビンソン」のカバーが披露された。ザ・コレクターズの楽曲の演奏とは打って変わって、古市コータローは手元をじっと見つめながら丁寧にギターのアルペジオを奏でた。そして「希望の舟」の後に披露されたのは、活動初期の楽曲「NICK! NICK! NICK!」。ストレートなロックナンバーであるこの楽曲の演奏に、30年超のキャリアを重ねるザ・コレクターズの今なお古びることのない初期衝動があった。最後に「ノビシロマックス」が演奏され、ザ・コレクターズの4人はステージを後にした。

 メインの8823ステージの下手側フロア奥にある3373ステージ。ザ・コレクターズの終演から間を空けず、お揃いのピンクの衣装に身を包んだ4人組、CHAIが登場した。1曲目に演奏されたのは「Sound & Stomach」。ユナによるドラムの出音の割合が大きい独特なサウンドプロダクションに、ポストパンクを彷彿とさせる格好良さがあった。ドスの効いた声でキーボードのマナがラップを繰り出した「ヴィレヴァンの」の後には、マドンナの楽曲「Material Girl」の替え歌に乗せて、1stアルバム「PINK」の宣伝が行われた。その後「トム・クルーズに壁ドンされたい!バット、ハンサム・ボーイ・イズ・バッド・ボーイ!」というマナの発言をベースのユウキが戸田奈津子よろしく日本語に翻訳するMCから「ボーイズ・セコ・メン」、そして「N.E.O.」が披露された。「おい!ヒゲとメガネ!お前らちゃんとやってないの見えてるぞ!」と観客全員のブーイングを促した後に「ぎゃらんぶー」、最後に「sayonara complex」が演奏され、CHAIのライブが終演した。

 続けて、ホラ貝の音色をSEにステージの幕が開いたレキシ。ホーンセクションを含む総勢6名のサポートメンバーはステージ中央の池田貴史を囲むように半楕円状に一列に並んでいる。公式グッズである稲穂のレプリカを意気揚々と掲げて振る観客に対し、池田は「まだその曲じゃないから!きっと後で自由に稲も振れるはずだから!収めてください」と制した。「大きな力で〜(ロビンソン) イベントに呼んでいただきました、レキシです!よろしくお願いします!」と1曲目に披露されたのは「きらきら武士」。観客が腕を挙げて左右に動かすハンドウェーブが会場の一体感を生み出した。続く「KATOKU」では、楽曲のキメに合わせて池田が振り向く様子に、観客の黄色い歓声が上がった。そして、池田は衣装である着物の上に重ねて十二単を羽織り「SHIKIBU」が披露された。最後に演奏されたのは「狩りから稲作へ」。曲中、スピッツの「涙がキラリ☆」の稲穂バージョンの替え歌も織り交ぜられ、フロアに数多くの稲穂が枝垂れる中、レキシのライブが幕を閉じた。

 「2016年4月22日振りの皆さん、こんばんは、スカートです」とギターボーカル澤部のMCからスカートのライブが始まった。1曲目は「ストーリー」。後のMCで、直前に出演したレキシと自分たちを比較して、「エンタメには生真面目で立ち向かうしかない」と冗談交じりに澤部は語った。その発言を体現するように、端正なポップスを丁寧に演奏していくライブになった。新譜「20/20」から「さよなら!さよなら!」と「視界良好」が披露される。「不思議な縁がありまして、『みなと』のレコーディングに口笛で参加させて頂いて、ミュージックステーションに一緒に出させてもらって、そして今日、このイベントに呼んで頂いて、感謝しかないです」とスカート・澤部渡のスピッツとの関わりに対する感謝の思いが語られた。そしてドラマ「山田孝之のカンヌ映画祭」のエンディングテーマとなった「ランプトン」と「CALL」、「すみか」が続けて演奏された。「mitsume」とデザインされたタオルで汗を拭った後、来年の3月に渋谷クラブクアトロにて開催されるワンマンライブの告知が行われた。その後に演奏されたのは「回想」。清水のグルーヴを醸し出すベースに、佐久間のドラムハイハットとシマダボーイのパーカッションが裏で刻むリズム。佐藤によるメロウなキーボードが演出する楽曲のムードに乗せて、澤部はギターのカッティングを刻みながら、ファンクネスな譜割りで歌唱した。そして最後に「静かな夜がいい」が演奏され、スカートはステージを降りた。

 転換を終えたステージの幕が開き、スピッツのライブが始まった。1曲目は「死神の岬へ」。本曲が収められた1stアルバム「スピッツ」のジャケットと同じく、青色の照明にメンバーは照らされた。続けて披露された「みそか」。2ビートで曲が勢いづくサビに展開すると、ベースの田村は飛び跳ね、ステージを駆け回りながらの演奏を見せた。MCでは、今日の新木場サンセットに出演した4組への感謝と、それぞれのアーティストに対する思い入れが語られた。また、ザ・コレクターズが「ロビンソン」をカバーした際、加藤が「スピッツの曲はキーが高い」と発言したことに対し、マサムネは「コレクターズも結構キーが高いんだよ」と話し、ザ・コレクターズの「青春ミラー」の一節をアカペラでカバーする一幕もあった。多くの観客が飛び跳ねる盛り上がりを見せた「野生のポルカ」と「歩きだせ、クローバー」の演奏を終えると、「最近やっていなかったから」とメンバー紹介が行われた。「今日誕生日です、おめでとう」と紹介されたサポート・キーボーティスト、クジヒロコは、「お気づきでしょうか、ピンクの衣装。30年前なら私もCHAIに入れたかな?」と軽妙なジョークで会場を温めた。アルバム「醒めない」の収録曲「子グマ!子グマ!」に続けて披露されたのは、ポルノグラフィティの楽曲「アポロ」のカバー。演奏を終えると、「昨日のライブ(新木場サンセット1日目)の後、気付いたんだけど、自分たちが正直に歌うなら『僕らの生まれてきた ほんのちょっと後だけど』なんだよね」「1969年だからね」とマサムネとテツヤによる冷静なツッコミが入れられた。そして、崎山のドラムスティックの4カウントから「三日月ロック その3」と「8823」に続けて、ライブ本編の最後に演奏されたのは、今年発売された30周年ベスト盤に収められた新曲「1987→」。バンドが結成された頃の初心に立ち返った気持ちで製作されたこの楽曲の演奏には、30年のキャリアを経てもなおスピッツが放ち続けるフレッシュな爽やかさがあった。

 アンコール。観客の拍手に応えてステージに登場したメンバーの手には、レキシのグッズ、稲穂のレプリカがあった。その様子に応えるように観客は稲穂を掲げた。マサムネは稲穂を手に「Aメロは横にこう揺らして、サビは前後にこう、ね」と観客にノり方を指南した後に、演奏されたのは「稲穂」。フロアに揺れる多くの稲穂は、橙色の照明に照らされた。最後に「稲穂」がカップリングとして収められたシングルの表題曲「さわって・変わって」が演奏され、スピッツのライブは幕を閉じた。ライブ終演後、稲穂やドラムスティックをフロアの観客に投げ込むメンバー。マサムネがギターピックを投げると、フロア中央にいた自分の方向へ飛んできた。思わず腕を伸ばすと、ピックは自分のちょうど手の平の中へ。しかし、勢いよく飛んできたピックは、そのまま自分の手の平を弾いて、フロアの人混みの中へ消えてしまった。運良く飛んできたピックをキャッチ出来なかった自分の運動神経の無さを少しだけ恨みながら、帰路に着いた。

#20171203 Enoshima

 朝、目が覚める。ベッドから身体を起こそうとした瞬間、背中に痛みが走った。もがきながら枕元のスマートフォンを手に取り、「肩甲骨 右 痛み」で検索を掛ける。先日に受けた健康診断で数値の悪かった部分と一致する症例が出てきた。「…いやいや、単に寝違えただけだろう」と自分自身に言い聞かせる。自分の心を落ち着かせるように、ベッドのマットレスを180度回転させた後、新宿駅へ向かった。

 ブロンズ色のロマンスカー複々線工事の様子が垣間見える地下区間を抜けると、窓の外には一面のサバーバンが広がっていた。しかし、背もたれに身体を預けることもままならなかった自分は、車窓の景色に目を向けながらも、「肩と腰の痛み、辛いですよね」という言葉からラ・マンチャの男に思いを馳せ、気を紛らわせていた。

 終点の片瀬江ノ島駅ロマンスカーを降りる。江の島弁天橋を歩いて渡り、江の島へ上陸した。島をぐるりと一周、という気分になれるはずもなく、「天然温泉」の看板を掲げる江の島アイランドスパへ入った。

 江の島アイランドスパは屋内浴場と水着着用の屋内スパ、屋外スパの大きく3つのエリアに分かれている。この内、屋外スパは12月以降の冬期は営業を休止しているとのことだった。水着のレンタルも可能だったが、今回は屋内浴場で湯治に励むことにした。屋内浴場へ入る。中の様子はスーパー銭湯というよりも、観光ホテルの大浴場と呼ぶに相応しい雰囲気だった。窓からは冬の澄み切った空に、湘南の海と藤沢の街並みが一望できる。天然温泉の湯船と炭酸泉の湯船を行ったり来たりしながら、水面に反射する照明の光のゆらぎを眺め、湯に浸った。

 アイランドスパを出て、江の島を後にする。背中の調子もだいぶ楽になった。日も暮れかかった江の島弁天橋。西の空にはマジックアワーの青と橙のグラデーション。そして、その手前には夕日の逆光を浴びる富士山の姿が浮かび上がっていた。橋を渡る観光客の多くは西の夕景をカメラに収めていたが、東の夜空にはスーパームーンの大きな満月が燦然と輝いていた。

 湘南の海岸沿いを車が走る国道134号と、江ノ電江ノ島駅から江の島へ続く道路が交わる江の島入口交差点。その角に建つビルディング・江の島ビュータワーの4階にあるお店、江の島オッパーラにて開催されたイベント「江ノ電」へ。

 入場して間もなく、バレーボウイズのライブが始まった。オッパーラにライブハウスのようなステージは無く、館内奥に構えるDJブースの手前、フロアレベルに楽器を並べてライブが行われる。全員にボーカルマイクが立てられた7人のメンバーは、決して広くないライブスペースで肩を寄せるように演奏を行った。ライブで彼らが放った、若さの煌めきの、その真っ只中に自分も巻き込まれてしまうような気持ちになった。

 北沢夏音による幕間のDJを挟み、2番手に登場したのはキイチビール&ザ・ホーリーティッツ。オッパーラには一般的な前方左右のスピーカーに加え、フロア後方にも左右2つのスピーカーが設置されている。その後方スピーカーの前に立ち、背中に出音を感じながらライブを鑑賞した。「自分は岩手の海沿い、大船渡の出身なんですけど、海が望めるこの場所でライブが出来るのは嬉しいです」とキイチビールは話した。オッパーラの窓の外にある海辺は夜の暗闇に消えてしまっていたが、その海岸線は行き交う車のヘッドライトに照らされていた。

 キイチビール&ザ・ホーリーティッツがライブを終えると、DJブースにはココナッツディスク吉祥寺店店長の矢島和義が入った。トリの開演を待つフロアの熱を高めていくDJプレイ。選曲に応えるように、バーカウンターの奥にあるブラウン管テレビではザ・ブルーハーツのライブ映像が再生されていた。

 そして今回のイベントの主催、台風クラブのライブが始まった。ギターとボーカル、ベースにドラムとそれぞれのコーラス。シンプルな3ピースのバンド。ガレージサウンドのロックンロールにポップなメロディ。曲を重ねる度に、メンバーの額には少しづつ汗が噴き出していた。観客の熱気は100℃に達する直前のお湯のようにグラグラと沸き立っていた。ライブ終盤、「あと2曲で終わりです、汗かいて、楽しんで帰ってください」というMCの後、演奏された2曲の盛り上がりには、オッパーラの空間に収まりきらないほどの熱狂があった。

 観客の鳴り止まない拍手に、台風クラブは4回もアンコールに応えた。4回目のアンコールを終えると、「もう永遠に拍手止めないでしょ」と笑い、来年1月に新宿ロフトで開催される台風クラブ主催のオールナイト・イベントの告知を行い、ライブの幕を閉じた。

 ライブの翌日、昼休みにレコード店へ行くと、新品の「初期の台風クラブ」のLP盤があった。中古CDコーナーに並んでいたGUIRO8cmCDシングル4種も手に取り、「音楽の神様って本当にいるんだな」と思いながらレジへ向かった。

#20171118 Shin-Okubo

 新宿のディスクユニオンを後にして、新大久保に向かって歩いていく。道中、靖国通りの横断歩道で熊手を持った人たちとすれ違った。そういえば、と東の方に目を向けると、軒を連ねる屋台の露店。酉の市が行われている花園神社の周辺は多くの人でごった返していた。

 折角の機会なので熊手を売る露店を覗いてみよう、と花園神社の中へ入っていった。入口直ぐの場所で、法被を羽織り声を張り上げて呼び込みをする女性の姿が。カッパ御殿という看板が掛かった小屋があり、その中ではショウが行われていた。客席は満員御礼で、中に入れなかった人たちが会場の周りにひしめき合っていた。

 熊手を売る露店が並ぶエリアへ入る。煌びやかさを放つ大小様々な熊手と、それを売る屋台の鉄パイプ・トタン・ブルーシートとのコントラストに頭がクラクラしそうになった。奥へ進むと、旧年の熊手を納めるスペースがあった。山のように積み上げられた熊手の様子も、また圧巻だった。

 途中で寄り道をしたものの、会場となるカフェアリエには開場時刻ちょうどに着くことが出来た。しっかりとした造りのテーブル、コースターの上には緑色の瓶ビールが置かれている。暫くの後、電球色のスタンドライトを1本残して、店内の照明は消灯した。VoxのギターアンプGibsonエレアコ、幾つかのエフェクター、ボーカルアウトのスピーカー。颯然とSho Takahashiのライブが始まった。

 ライブの1曲目は「恋人たち」。会場の空気を確かめるように、そしてその空気を少しずつ変化させていくように演奏された。2曲目に披露されたのは「太陽さん」。ボーカルの歌唱とギターの弾奏のギアを大きく上げたその演奏は、行き場のないブルースがこの空間で爆発したような印象を強く感じさせた。

 全部で15曲ほどの楽曲が演奏されたライブとなった。今年リリースされた自主盤「NZM」の曲と、昆虫キッズの曲と、半々の割合だった。ゆっくりとしたテンポのアレンジで演奏された「ASTRA」は、歌詞の一節一節を噛み締めるように歌われた。また、カバーで披露された「と、いう話さ」はアルバム「Too many people」に込められたASKAの魂に胸を借りるような演奏だった。

 ライブが終わり、帰路に着く。冬の訪れを感じさせる冷たい風が身体を刺した。「初っぱなのMCで縁起でもないこと言われちゃったしな…」と振り返り、雑司が谷駅で途中下車をした。既にあとの祭りの雰囲気が漂っていた大鳥神社でお参りをした後、三本締めの掛け声を遠くに聞きながら、家へ帰った。

#20171117 Jimbocho

 神保町試聴室にて行われたシンガーソングライター・butajiのワンマンライブへ。水道橋駅九段下駅神保町駅の3駅を線で結んで出来る三角形、その中心にライブスペース・試聴室は位置している。自分は水道橋駅から会場へ向かったが、華金ということもあり通りに数多く並ぶ居酒屋はどの店も輝きを放っていた。間もなく試聴室に到着、会場の中に入る。ドリンクチケットの役割を果たすトランプのカードをビールと引き換え、席に座った。周りに目を向けると、真ん丸のビンを傾ける人の姿が。「リンゴジュース、ってマルティネリだったのか…」と若干後悔の念を抱きながらも、開演の刻を待った。

 満を持してbutajiが登場すると、客席の温かい拍手と歓声に迎えられた。クラシックギターを抱えて1曲目に演奏されたのは「ラブソング」。シームレスに続けて「サンデーモーニング」が披露された。熱の入った演奏を終え、ハンカチで汗を拭う。「本当は3曲目で脱ぎたくなかったんですけど…」と言い訳を交えながら黒いジャケットを脱ぎ、「銀河」が歌われた。続いて披露されたのは「秘匿」「花」「あかね空の彼方」の3曲。いずれもゆったりとしたテンポの楽曲だが、ボーカルとギター1本の演奏にも関わらず、それぞれの楽曲が映し出す情景に引き込まれる気持ちになった。Twitterで予め募ったリクエストに応える形で披露されたのは「ウィークエンド」。演奏を終えると「弾き語りだとボサノバみたいになっちゃって…」と申し訳ない様子を見せたものの、観客の「良かったよ」の声に安堵の表情を見せた。そしてコンピレーション盤「Young Folks in Metropolis」に収められた「長い雨」、ギターでリズムを刻みながら「EYES」が演奏された。「カバーを1曲」と披露されたのは山下達郎の「あまく危険な香り」。続けて「ミッドナイト・マジック」が歌われた。「宇多田ヒカルさんの曲のカバーを、前にやったのとは違う曲なんですけど、」と演奏されたのは「time will tell」。ギターの弾奏と原曲に倣ったボーカルの節回しが楽曲の魅力を引き出す演奏だった。また、「奇跡」とタイトルがまだ決まっていない新曲が続けて披露された。

 収録曲のインスト版も新たに追加された形でリイシューされたEP「四季」が今日のこのライブから販売されることを報告した後に、EPに収められた「四季」、秋をイメージした「悲しみはともだち」、冬をイメージした「けもの」の3曲が演奏された。そして最後に「Light」が披露され、ライブ本編が締めくくられた。鳴り止まない拍手にbutajiは深く一礼し、「いいとも」の一・三拍子で会場の拍手をまとめ上げた。「…これ、試聴室でしかやらないですから!」と言い訳しながらも、綺麗に拍手が揃い、嬉しい表情を隠せない様子を見せた。アンコールでは「初めてライブでやる新曲です、現在が過去と繋がった瞬間の歌、子供の歌です」と紹介された「Same Things Same Time」と「東京タワーとスカイツリー」が演奏され、ライブが幕を閉じた。

#20171116 Takadanobaba

 高田馬場のラーメン屋に入る。食券を店員に渡し、カウンター席に座った後、スマートフォンでニュースサイトを眺めていた。紅白歌合戦の出場歌手発表のニュース、M-1グランプリの決勝出場者発表のニュースがあった。そしてそのどちらの番組にも出演者として発表されていなかった"にゃんこスター"になぜか思いを馳せていた。「この動きを求めている俺がいる」という言葉に、テレビの中で行われているお祭りに夢中になっていた自分自身を指摘されたような気持ちになり、我に返りながら笑ってしまった瞬間を思い出していた。程なくして、ラーメンの丼がカウンターのテーブルに届けられた。乗せ放題のネギを黒いスープに浮かべる。麺を啜りながら、恵比寿リキッドルームで行われたトリプルファイヤーのワンマンライブを反芻していた。

 開演を知らせるブザーが鳴り、ステージの幕が開く。上手から山本慶幸(Ba)、大垣翔(Dr)、鳥居真道(Gt)、シマダボーイ(Perc)が登壇し、客席の歓声で迎えられる。酒が入ったプラカップを片手に吉田靖直(Vo)が登場すると客席から笑いが起きた。吉田は足元にプラカップを置いた後、ズボンの尻ポケットに収まっていた烏龍ハイの缶を2本取り出し、並べて置いた。ライブの1曲目は大垣の4カウントから「SEXはダサい」が演奏された。曲間のMCで吉田が「東京インディーズの重要人物」と紹介したサポート・パーカッションのシマダボーイ。彼のパーカッションが入ることで過去の曲の多くが様々な音色のリズムで彩られた。その最たる曲となった「Jimi Hendrix Experience」では、曲全体にラテンのリズムに合わせたアレンジが施されていた。さらにサポートメンバーとして遊佐春菜(Key / 壊れかけのテープレコーダーズ)を迎えると、新しいアルバム「FIRE」より「銀行に行った日」「人生を変える言葉」などの楽曲が披露された。ライブ中盤、サポートメンバーの2人がステージを降りると、「ここからはオリジナルメンバーで演奏したいと思います、…『オリジナルメンバー』って初めて言ったかもしれない」という独特の間を持った吉田のMCが観客を沸かせた。その後「エキサイティングフラッシュ」「次やったら殴る」「はずれのヘルス嬢」「じじいの同窓会」など新旧様々な楽曲が4人編成で矢継ぎ早に演奏された。再びシマダボーイがステージに登場すると、ゲームソフトに着想を得た歌詞という点で共通している「コインとキノコ」と「サクセス」の2曲が続けて披露された。また、キーボードの遊佐を再度ステージに迎え、6人編成で「漁師の手」「有名な病気」が演奏された。そして「野球選手になるために」。吉田のリズムに合わせた細切れのボーカル、鳥居のミニマルなギターリフ、山本のファンクネスなベース、大垣の転調で刻まれる16分のハイハット、シマダボーイの裏でリズムを刻むカウベル。トリプルファイヤーの楽曲が持つ異質な雰囲気をより一歩先に発展させた演奏だった。その後、「『カモン』…『行くよ』…『カモン』…『行くよ』」とアメリカン・ポルノを彷彿させる歌詞のアレンジが施された「カモン」、「こだわる男」でライブ本編を締めくくり、アンコールでは「スキルアップ」「普通は走り出す」が披露され、ライブの幕が閉じられた。