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9/10 山形県朝日町 / 寺フェス'16

山形県は朝日町、若宮寺にて開催された寺フェス'16へ。

公共交通機関で会場へ向かうルートとしては、山形駅からJRフルーツライン左沢線に乗って左沢駅へ。左沢駅から路線バスで朝日町役場へ向かう。(町役場から会場まで無料シャトルバスが運行されている。)しかし、JR左沢線は1時間に1本、路線バスは土日だと1日に4本のみの運行であり、無料駐車場として開放された朝日町役場へ自動車での来場が推奨された。

無料シャトルバスに乗り、山の面影を強く感じる曲がりくねった坂道を進む。その中腹に若宮寺は位置していた。バスを降り、石段を登った先に広がっていたのは、町のお寺と呼ぶに相応しい空間だった。屋外の庭エリアには、朝日町をはじめ山形に縁のある様々な出店が展開された。また、木をチェーンソーで切り出して作られた動物のオブジェが数多く展示され、会場を彩った。

本イベントでは寺院の本堂が演奏スペースとなった。本堂の内部は襖が取り払われ、横長の会場となった。上を見上げると、金色に輝く天蓋や幢幡がぶら下がっている。向かって正面には11の観音様が縦に3列、計33の観音様が一様に並べられていた。この観音様が並ぶエリアと客席となる畳のエリアの間には20cm程度の段差がある。登坂高典住職の説法によると、この段差が死後・仏の世界である"内陣"と私たちの生きる世界である"外陣"の境界を表す、とのことだ。その段差を利用する形で、内陣の手前側にマイクスタンドとギターアンプがセッティングされた。

13:00、主催者である登坂尚高の前説を終え、袖に捌けた後に固い握手を交わし、入れ替わるように原田晃行が登場した。初めは緊張からか、どこか気恥ずかしそうな様子だったが、ローランドJC-120から鳴らされるセミアコのギターカッティングを重ねる度に、演奏もより自然な形へ変化していった。「自分山形出身で、山形中央高校だったんですけど、6年振りに会う友達も今日来てくれてて、嬉しいです」と故郷山形でのライブに喜びの表情を見せた。200年の歴史を誇る本堂にエアコンは勿論無く、原田は「あちぃ」と腕を上げ、Tシャツの袖で汗を拭う。縦の線に汗が染まる。正面には"Hi,how are you?"の文字とキャラクターが描かれたダニエル・ジョンストンの橙のTシャツだった。

本堂を出て、転換の間にトイレを済ませようとするも、間もなく登坂尚高のライブが開始した。本イベントの出演者は多くがギター1本の弾き語りだったため、転換時間が5分程度の場合が殆どだった。ライブ後の熱気が冷め切らないうちに、次の出演者のライブが始まる。これこそが今回の寺フェスの大きな特徴であり、一番の魅力であると感じた。

登坂尚高〜登坂高典(説法)〜豊山太鼓千響&上田秀一郎、は本堂の外に出て屋外から立ち見で鑑賞。本堂内のステージの両サイドに設置されたスピーカーに加え、屋外にも小振りなスピーカーが4つ設置されており、本堂内に入れなくともライブが十分に楽しめるよう配慮がなされていた。

売店の出店では、天童産の桃を使用したピーチスムージーを頂く。桃と氷をミキサーにかけて作られた黄色のスムージー。恐らく"黄金桃"という品種の桃だろう。果実由来のとろける甘さが非常に美味だった。また、原田晃行のライブのMCでも触れられていたコーヒーとカセットテープ販売のお店へ。カセットテープに限らず、ポータブルのプレイヤーも販売されており、それを購入。店主のご厚意で、カセットテープも1本付けて頂いた。有り難うございました。

会場である本堂に合わせて黄色のシャツに身を包んで登場した、前野健太。1stアルバム「ロマンスカー」から最新作「今の時代がいちばんいいよ」までの曲に加え、未リリースの曲も多く披露される充実のライブとなった。一番の盛り上がりを見せたのは、新曲「天草マンボブギ」。老若男女の観客がブギのリズムに合わせ裏拍で手拍子を打つ。本堂の演者と客席の近さは、観客の盛り上がった反応をダイレクトに伝わらせ、前野健太の演奏を大いにヒートアップさせた。

若宮寺と同じく真言宗のお寺の家の息子でもある、松本素生(GOING UNDER GROUND)。1曲目に披露された曲は「ハートビート」。イントロが演奏されると客席から大きな歓声が上がった。MCでは、初めは5人だったメンバーが3人になってしまった自身のバンドについて語られた。「2枚目のファーストアルバムと呼べる作品になったと思います」と自ら評した新譜「Out Of Blue」から演奏された楽曲「the band」は1人の弾き語りでありながら、バンドで作る音楽への強い自信が溢れる演奏だった。

銀杏BOYZのライブを待つ客席は独特の緊張感に包まれていた。ローディーがサウンドチェックを行う中、峯田が袖の襖から顔を覗かせると、観客から歓声が上がる。程なくして登場した銀杏BOYZ峯田和伸は盛大な拍手で迎えられた。1曲目「人間」。緊張と少しの照れを浮かべた様子で演奏が始まる。観客は食い入るように演奏を見つめる。2曲目「生きたい」の演奏を終えると、峯田は「ふう」と溜め息を吐いた。境内の外を指差し、「ここから向こうにある山辺町の家から山形市の高校まで自転車で30分掛かる一本道の県道が通学路で、高校生の頃は毎日イヤホンして音楽聞きながら通学していました。大学生になって上京して、はじめて作った曲です」と「YOU & I」が演奏された。続けて「骨」の演奏を終えると、「半袖着て来ればよかったー」と小さく呟いた。長袖の青いシャツ、その首元は汗に染まっていた。その後、「夢で逢えたら」「新訳 銀河鉄道の夜」「光」が演奏された。「自分も今年で39歳で、18歳の時に山形を飛び出して上京して、東京で過ごした年数の方が長くなってしまって、なかなか山形には帰れていなくて。あんまり言いたくないけれど、山形はやっぱりいい所ですね。」口元を手で隠し、照れた様子で峯田は語った。「次は、BABY BABYという曲をやります」というMCに続いて「BABY BABY」が演奏される。曲の後半、峯田はアコギを抱えたまま、ステージである内陣から客席の外陣へ降り、サビを繰り返し演奏した。オフマイクの峯田の歌声は本堂とその外に広がる夜空へ響き渡った。打ち込みのオケに乗せて披露された「ぽあだむ」。峯田は歌いながら、ハンドマイクを片手に客席の中へ飛び込んだ。客席を包んでいた膜が破かれ、銀杏BOYZと観客の間にあった境界が無くなった瞬間だった。歌う峯田にしがみ付いて離れない女性。頭が真っ白になった様子で恐る恐る峯田の体に触れる男性。峯田はそのまま本堂の縁側まで歌いながら突き進んでいく。観客の熱狂に包まれ、ライブの本編が幕を閉じた。

アンコール。峯田は本イベントの主催者である登坂尚高と共に登場した。「出演させてもらった『奇跡の人』の撮影が3月に新井薬師っていうお寺さんであったんですけど、そこに修行の一環で僧侶として新井薬師に来ていた登坂くんにオファーしてもらって、今回出させてもらいました」と今回の出演の経緯を紹介した。椅子に座って弾き語りで「大人全滅」が演奏される。登坂尚高はステージ上手の袖に正座で座り、溢れる涙を拭いながらも、銀杏BOYZのライブを眼に焼き付けていた。

銀杏BOYZのアンコールが終わり、主催者の登坂尚高が後説のためにステージへ再び登場した。登坂の口から出演者の方々、出店の方々、ボランティアスタッフの方々、そして観客への感謝の思いが語られた。その表情は泣いているのだけれど、笑ってもいて、心の底から嬉しさが溢れ出た様子だった。東北は山形の中心部から離れた町の寺院で開催されたこの寺フェスというイベントは、間違いなく登坂尚高の音楽への深い愛と情熱が一番の呼び水で、それこそが今回の成功を生んだ一番の要因だった。寺フェスと彼への感謝の気持ちを込め、観客からこの日一番の拍手が贈られ、大団円でイベントは幕を下ろした。