4/30 宮城県川崎町

桜前線が通り過ぎ、本格的な春の到来を告げる宮城県。そんな宮城県ひいては東北の春の風物詩と呼べるライブイベントが、アラバキロックフェスティバルである。蔵王連峰を望む位置にある川崎町。自然豊かな国営公園内のキャンプ場が会場となっている。

今年の総入場者数は過去最高の52000人だったそうだ。チケットも今年は2日通し券が一般発売の初日に完売するなど、人気・集客共に年を重ねる毎に高まっている印象がある。一般に言われるロックフェスブームのような一過性のものとは異なる、今年で開催16年目を迎えるアラバキが16年の間に積み上げてきた歴史と、年を追う毎に少しずつ規模が大きくなっても変わらない魅力こそが、東北随一のロックフェスティバルと呼ばれる所以であると感じる。

11:00
会場のメインゲートからほど近いARAHABAKIステージにて、クリープハイプ。ワンマン公演に比べると短い40分という時間に新旧のヒット曲を惜しげもなく詰め込むセットリスト。下北沢のライブハウスの天井を取っ払ってそのまま持ってきたかのような盛り上がり。MCは決して多くなかったが、彼らが初めてアラバキに出演した2012年も同じARAHABAKIステージで演奏を行ったことに触れ、また新曲を増やしてここに帰ってきます、と観客に告げた。

12:30
「借金の過払い金の相談はー?」という前代未聞のコール&レスポンスで幕を開けた、BAN-ETSUステージ、清水ミチコ。(正解は10、20、30!だった。)「他のステージに豪華なアーティストが出ているのに、清水ミチコを見に来た皆さん、大きな賭けだったと思います。しかし、皆さんは賭けに勝ちましたよ!他のアーティストは1種類の声しか出せませんが、私清水ミチコ、3人4人は当たり前、10種類・20種類以上の声を出すことが出来ます!」広大なステージの真ん中に1つ置かれたキーボードを演奏しながら繰り広げられるモノマネメドレー。芸と呼ぶには見事すぎるステージは観客の爆笑に包まれた。

14:30
バンド編成での出演の真心ブラザーズ、ARAHABAKIステージ。YO-KING桜井秀俊(革ジャン&白パン)に加え、ベース:岡部晴彦、ドラム:サンコンJr.(ウルフルズ)の4人編成。25年を越えるキャリア、ベテランのステージングだった。披露された曲の多くが20年近く前にリリースされた曲だったが、20代に書いた曲を40代になったいま演奏しても決してウソにならない説得力と、20年経っても風化しない曲の強度。それこそが真心ブラザーズを現在の立ち位置に押し上げている大きな理由であると感じた。

15:20
総勢7名のバンド編成での出演のくるり、BAN-ETSUステージ。翌月から開催される「アンテナ」期の曲を中心に演奏するツアー「Now and then Vol.3」を見据えたセットリストのライブとなった。1曲目、会場の空気を確かめるように演奏された「さよなら春の日」に続き、2曲目は「地下鉄」。2曲とも原曲でドラムを担当したクリフ・アーモンド本人による演奏・ドラミングは圧巻であった。アンテナより「Morning Paper」「ロックンロール」の2曲の後に披露されたのは、ライブ初演奏の新曲「琥珀色の街 上海蟹の朝」。曲のイントロで岸田はギターを置き、カップに注がれたビールを煽る。岸田がハンドマイクで歌うのは「ワールズエンド・スーパーノヴァ」振りだろうか。R&Bやソウルへの接近を見せた重たいビートの曲は、くるりにとって新機軸を打ち出す楽曲だった。

16:10
東北6県を模した6つのメインステージとは別の小さなステージ、東北ライブハウス大作戦ステージで弾き語りライブを行ったのは、山内総一郎(フジファブリック)。他のステージに比べステージの高さが低いものの、観客は全員座り、ステージ前に柵もない近い距離感のアットホームな雰囲気のライブとなった。フジファブリックというバンドは往々にしてVo.Gt.志村の生前の頃の活動・楽曲が語られがちであるが、残された3人はフジファブリックとしての活動を止めなかった。その結果がソングライティングとして実を結んだアルバムが「LIFE」であると感じている。「ブルー」「桜の季節」「PRAYER(新曲)」「LIFE」「虹」と新旧5曲が織り交ぜて披露された。

17:55
開演時間ぎりぎりにHANAGASAステージに到着すると、大勢の観客はステージを覆うテントに収まりきらず、ステージ近くの通路にまで溢れ出していた。何とかステージ内に入り込むもステージには誰もいない。観客もステージではなく客席後方を向いている。その視線の先にいたのはゴンドラに乗った水曜日のカンパネラ、コムアイの姿だった。昨今の水曜日のカンパネラのテレビへの露出を考えればこの集客には納得であったが、一番に驚かされたのが楽曲のトラックの格好良さだった。広い括りで言えばベースミュージックと呼ばれるものであり、このような楽曲が邦楽ロックフェスで大いに盛り上がるほどの現象となっていることは非常に痛快であると感じた。新曲として披露されたメジャーデビューアルバムのリード曲「チュパカブラ」もゴリゴリのテクノで攻める素晴らしい楽曲だった。

18:40
水曜日のカンパネラのライブの終了後、BAN-ETSUステージへ移動し、ウルフルズのライブを途中から鑑賞。日は完全に暮れて、客席前方からは熱気が白く立ち上っている。幼心に聴いていた「ガッツだぜ!」を生で改めて聴く。ファンクに寄ったとても変な曲だと思った。変な曲だけれど、演奏も正直言ってめちゃくちゃ上手い訳ではないけれど、格好いいと思ってしまうのは、何よりウルフルズというバンドがロックバンドだからである、と感じた。

19:30
アラバキの出囃子(ジングル)が鳴り止むのを待たず、峯田はステージへ姿を現した。ARAHABAKIステージは唯一ステージに花道が設置されている。アコースティックギターを左手に持ち、右手でマイクスタンドを引きずりながら峯田が花道の先へ出てくる。アコースティックギターを肩に掛け、マイクの高さを調節した後、弾き語りで「人間」が歌われる。客の多くも合わせて歌う。峯田は時折客席へマイクを向ける。峯田が弾き語りを行う中、静かに3人のサポートメンバーがステージへ上る。ギター:山本幹宗(ex-The Cigavettes)、ベース:藤原寛(AL)、ドラム:後藤大樹(AL)。弾き語りのまま「人間」を終えると、バンドで「まだ見ぬ明日に」「大人全滅」が演奏される。苦しそうな表情で必死に演奏するサポートメンバーを見て、圧倒された。GOING STEADY時代の2曲を終えた後、「今日は久しぶりにこの曲をここで歌いたいと思います。聴いて下さい」ギターのフィードバック、ハイハットの4カウント。「夢で逢えたら」。音楽が爆発した瞬間だった。スピーカーから大きな音で鳴らされた音楽に、夜空の果てまで持っていかれそうな高揚感と幸福感だった。「このままずっと永遠にこの時間が続けばいい」と「BABY BABY」が演奏される。また、「光のなかに立っていてね」より「愛してるってゆってよね」「ぽあだむ(new mix)」が披露され、ライブ本編は終了した。アンコール、上着を脱ぎ上半身裸となった峯田は再びアコースティックギターを片手に花道の先へ出てきた。2011年のスメルズ・ライク・ア・ヴァージンツアーのオフの日、被災地での遺品整理ボランティアのエピソードが語られた。「だからこの曲をずっとやらなきゃいけない」と弾き語りで披露された「新訳 銀河鉄道の夜」。演奏を終え、峯田がステージから捌けた後も、観客からの拍手は暫く止むことは無かった。