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「本当の心は 本当の心へと 届く」
という歌詞の一節が自分の中に貼りついてずっと離れなくなってしまい、意を決して東京国際フォーラムにて開催されたライブへ行ってきました。

ホールの照明が暗転し、カウントダウンの後、1曲目に演奏されたのは「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」、まさにその曲でした。今回のライブでキーボードを担当したのは「アルペジオ」のシングル盤でオルガンを演奏した西村奈央さんという方で、自然体でありながら才気が溢れ出る演奏にライブ全編を通してずっと目が離せませんでした。ゲストではなく、バンドメンバーの1人としてステージに立った満島ひかりは完全にボーカリストで、総勢36名のメンバーの中にコーラス(隊)はいなかったのですが、その不在をポップスの歌心を持つキーボードの演奏が大きくカバーしていたように感じました。

序盤はカルテット編成だったストリングスが20人超のフル編成となって演奏された「ぼくらが旅に出る理由」。服部隆之が指揮を執り、まとめ上げられた弦楽合奏は大きなホールの全体を満たすように広がっていきました。新しいゴジラの身体から発せられた放射熱線のように、天井からのライトを手鏡で客席に反射させる満島ひかりとともに演奏された「あらし」は披露された楽曲の中で一番ダーク且つスロウな曲で、バンドの骨格となるベースとドラムスの骨太さを浮き彫りにしていました。

ライブの後半は"ファンク交響楽"のスーパーバンドの真骨頂と銘打たれ、ベースのグルーヴが強い楽曲を次々とシームレスに演奏されました。ただ、すべての曲で36名全員が自らの楽器を演奏する訳ではなく、ホーン隊のパートがない場面ではイスの役割を果たしているカホンをそれぞれのリズムで叩いたり、ストリングスの演奏が無い「東京恋愛専科」ではシャボン玉を吹き、サビでは振り付けを揃えて踊っていて、そんな様子が不思議となぜだか泣けてしまいそうになる瞬間でした。

そのコーラスのフレーズを繰り返すイントロから、メドレーの最後に演奏されたのは「ある光」。満島ひかりの腕の中には赤いテレキャスターディストーションで平らに歪んだギターの音色とともに楽曲が披露されました。メドレーを終え、一瞬息を整えたあと「よし、やりましょう」と声を掛け、ドラムのカウントから「流動体について」。演奏を終えると「アンコールも、よろしく!」と気丈に言葉を残し、一旦ステージを降りる形でライブの本編が終わりました。

アンコールの1曲目は「流れ星ビバップ」。終演後に音楽ナタリーが生配信したPeriscopeで語られた「アルペジオ」のオルガンのレコーディングに至った経緯の話を聞いたとき、改めての感動がありました。そして、その話を知らないままライブで見ていた「流れ星ビバップ」のキーボードの演奏は、心の底から気持ちを躍らせるものでした。

そして、アンコール最後の曲は本編の1曲目と同じ「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」。演奏を終えると、ライブが始まったときと同じようにこれからカウントダウンを行い、ライブを終える旨が説明されました。日常と非日常、その間に自ら線を引くということは、日常と非日常の両方が現実であることを自己認識するための手段なのではないか、と自分は思いました。そして、この手段を観客に提示した小沢健二という人の誠実さを強く感じました。

「5、4、3、2、1、生活に帰ろう」
ホールを照らしていた照明が消え、客電が再び点くまでの間、観客の大きな拍手は暗闇の中のステージに向けられました。

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